2023/05/19  
HD650考

■はじめに
HD650は2004年発売でもう20年近く前のヘッドホンなので、語りつくされていると思いきや、まだ語ることが多いヘッドホンのようです。元々この記事はK701のエージング考の追加記事にするつもりでしたが、HD650の再評価をする必要があると感じたので独立した記事にしました。
いつも通り長いので、読むのがめんどい人は最後のHD650考まとめを読んでね。

ちなみにHD650にもいくつかの世代があって微妙に音が違うようです。私の個体は2008年頃入手の2世代目モデル。レジスターが黒の布製から銀色の金属メッシュに変わったモデルです。golden eraと言われる個体でもないし、特別音が良いと言われる個体ではないと思いますが、最新世代のHD650を買っても完全に同じ音は再現できないことはご了承ください。ちなみにHD600の方は2021年購入のモデルです。


エージング手法はK701と同じく1211曲の楽曲を長時間ランダム再生するエージング法で行いました。HD650はAIOのHP端子を用いてPCで再生していますが、K701と条件を極力揃えるためDAPに入っている楽曲と同じものをPCから再生しています。
「楽曲は同じでも再生機器が違うじゃないか!」と思われる人もいると思いますが、その辺は同じ機械を何個も買い揃えるのはつらいので勘弁していただきたい。
機械によって仕上がり音質が微妙に違うのは確認はしているものの、ヘッドホンの比較においては無視できるレベル差だと考えています。
それは楽曲の違いによる波形の違いとアンプによる波形の違いを考えればわかります。当然ながら楽曲の違いによる波形の違いのほうが、アンプの差よりもずっと大きいのです。楽曲が違うと波形が根本的に違うからね。何が言いたいのかというと、アンプの違いよりも楽曲の違いのほうが、エージングの仕上がり音質に与える影響は遥かにでかいということです。あとはこのエージング手法は極力同じ波形パターンは突っ込まないというのが肝なので、この条件が達成できるなら、どんな再生機器でも一定レベルの音が達成できるはずです。音楽1曲1曲はエージング用波形としては優れていません。同じ波形パターンを流さないことが重要で、強力なアンプで駆動して波形を正確に再生することなんかは求められていないのです。しかも機械によって仕上がり音質が微妙に違うのを確認したのはSound Improver Oneのテスト用波形です。専用に作られた波形なら、強力なアンプで駆動して波形を正確に再生するのは意味あるかもしれませんが、エージング用に作られていない通常の音楽を正確に再生しても、エージング効果としてはさして意味はないでしょう。
HD600はconductor V2+でエージングしていますが、もし、再生機器の影響がめちゃくちゃ大きいなら、HD600が一番いい音で鳴ってないとおかしいのですが、そういった結果にはなりませんでした。再生機器の影響はあってもヘッドホンのヒエラルキーをひっくり返すほどの差はないでしょう。


今回比較に使ったヘッドホンはK701, HPT-700(断線中), HD600, K812, nighthawk carbon, HD650なので、各ヘッドホンのテンプレ評価(音質順、後になるほど高音質)を載せておきます。すべてATOLL HD120での試聴。
あとエージング時の音量は適当に合わせたので、どのヘッドホンまったく同じ音量では鳴っていません。音量合わせの曲も適当です。なので大体同じですが、1-2dBの差はあるかも。


◆K701
2022/10/20_追記_エージング時間 4245時間_エージングはDAPでALLランダム再生。(3559時間まではALL順再生)
ATOLL HD120で試聴。
ランダムエージング開始から686時間。
ほぼ完璧だが、高域の歪感はやや気になる。聴きはじめは何も問題ない気がするのだが、長時間聴いていると疲れやすい感じ。やはり高域の歪感は出やすいヘッドホンなのかな。高域の歪感はHD650以上でnighthawk carbonより僅かに劣るかも。鮮烈さはnighthawk carbonを圧倒する。歪感はnighthawk carbonより僅かに劣ると言ってもnighthawk carbonhaは濁りによって歪感は誤魔化されるが、K701は濁りが少なく、歪もよりはっきりわかってしまうので、「nighthawk carbonより僅かに劣るかも」レベル以上に歪っぽく感じてしまう。曲によっては耳に突く音なんだよね。これがこのヘッドホンの欠点だろう。だがそれ以外の欠点は見当たらないといって良い。「ポテンシャルの割には高域の歪が多すぎるよ」とは思うけど。あと音像に芯が足りない感じが僅かにする。これもDT880E/600と同じですが、DT880E/600ほど酷くはありません。調子がいい時はこの癖は出ません。
傾向はニュートラル。詰まり感なし。閉塞感なし。抑圧感なし。音色はすごく良い。まだ機械の存在を忘れて音楽に没頭できるレベルをボーダーから0.10歩ほど超えていきている。解像度はEPT-700(02s91 LRSWHN741, 2.406Vrms, +470段(これを基準とする))の+690段程上。+1160段の解像度。解像度に段という単位を使うのはどうかと思うんだけど、伝統だね。HD650(約800時間,非ランダム再生エージング,HD120再生)はEPT-700基準だと+290段の解像度なので、K701はHD650の400%の解像度と言うことになる。奥行きは24m


◆HPT-700(途中で断線したので、エージングタイム3000時間時の記録です。ちまちま音質比較はしていましたが、この原稿の最終チェック時点では比較していません。)
2022/12/19_1980時間ランダム再生(+1000時間の通常の再生エージング)_DR.DAC3, 0.539Vrms, 32Ω
高域のキツさは無くなってきている。音質的にはK701(4675時間, 1211曲ランダム再生)と似たような感じ。解像度は+100段程上で、よりクリアでイメージングが良い。音が硬めで音色はK701の方がやや良いというのは、1123時間ランダム再生(+1000時間の通常の再生エージング)時と印象は大きく変わらないが、その時よりもサ行が刺さりにくくなっているし、解像度も+90段ほど上がっているのでじわじわ上がってきている。
傾向はニュートラル。詰まり感なし。閉塞感なし。抑圧感なし。音色はものすごく良い。まだ機械の存在を忘れて音楽に没頭できるレベルをボーダーから0.12歩ほど超えていきている。解像度はK701(1211曲, ランダム再生, 0.6-0.7Vrms, 4675時間以上, +1160段(これを基準とする))の+100段程上。+1260段の解像度。解像度に段という単位を使うのはどうかと思うんだけど、HPT-700はK701の108%の解像度と言うことになる。奥行きは24m
3000時間で断線してしまったので、それ以来聴いていないのですが、記録からするとnighthawk carbonやHD600よりも低めに評価している。まだ3000時間なので4000時間まで引っ張れば、もう少し音質が良くなる可能性はある。良くなってもnighthawk carbonやK812とどっこいレベルに落ち着きそうではありますが。。。そのうち断線修理して、4000時間まで引っ張りましょうかね。


◆HD600
2023/05/11_ランダム再生開始から2088時間(+Sound Improver One,2のテストに推定2400時間以上使用)_conductor V2+, 0.681Vrms, 300Ω
1006時間とほぼ印象変わらず。
傾向はニュートラルだがややほんの僅かに鈍り傾向。詰まり感なし。閉塞感なし。抑圧感なし。音色はすごく良い。まだ機械の存在を忘れて音楽に没頭できるレベルをボーダーから0.25歩ほど超えてきている。解像度はK701(エージングタイム4752時間以上, 1211曲のランダム再生, 0.6Vrms, +1160段(これを基準とする))の+120段程上。+1280段の解像度。K701の110%の解像度と言ったところ。解像度に段という単位を使うのはどうかと思うんだけど、伝統だね。奥行きは24m(カンスト)
nighthawk carbonと比べると音色はnighthawk carbonの方が1グレードレベルが上と言った感じで、解像度はnighthawk carbonの方が僅かに良いと言った感じ。一応ニュートラル傾向の範疇には入っているけど、少し曇る感じが出るのはnighthawk carbonもHD600も同じ。密度感はnighthawk carbonの方があるな。ただし、より音が曇る感じがするものの自然さではnighthawk carbonよりも良いという点は評価すべき点だろう。

※HD600はSound Improver One,2のテストに使っていた。それをHD650との比較のために1211曲のランダム再生で上書きしたもの。最大入力で鳴らした経歴があるので、通常の音楽だけを1211曲ランダム再生で鳴らした状態と全く同じ音が出るとは言い切れないのだが、おそらくだが、通常の音楽だけをランダム再生で鳴らした状態にほぼ近い音が鳴っているだろうと考えている。
というのは、通常の音楽をランダム再生したnighthawk carbonのほうが、Sound Improver Oneを再生したnightowl carbonよりも若干音質が良い。おそらく1211曲のランダム再生はSound Improver Oneよりも仕上がり音質が良いのだろう。まぁ、Sound Improver 2には劣るけどね。
それで、HD600はSound Improver 2のテストに使っていた時と比べて、確実に音質が落ちたのだが、1211曲のランダム再生のnighthawk carbonとどっこいくらいの音質には付けている。HD600はSound Improver Oneを再生してた時は、Sound Improver Oneを再生したnightowl carbonとどっこいだったので、そんなにおかしな位置づけにはなっていないだろうということ。おそらく、HD600も新品時から1211曲のランダム再生しても現状とほぼ同じ音に収斂するのではないだろうか?


◆K812
2023/05/10_エージング時間 4033時間_エージングはDAPで1211曲ランダム再生(2519時間からランダム再生開始。ランダム再生開始から1514時間)
解像度的にはnighthawk carbon(3101時間ランダム再生エージング)基準だと変わらないようだ。だが、モヤ感はわずかに改善されて音色もnighthawk carbonより良くなっている。ボリューム感は依然nighthawk carbonに劣っているが改善されている。トータルで見て以前はnighthawk carbonのほうが良いという評価だったが、今は互角という評価。
傾向はニュートラルだがややほんの僅かにソフト傾向。詰まり感なし。閉塞感なし。抑圧感なし。音色はかなり良い。まだ機械の存在を忘れて音楽に没頭できるレベルををボーダーから0.4歩ほど超えてきている。。解像度はK701(エージングタイム4752時間以上, 1211曲のランダム再生, 0.6Vrms, +1160段(これを基準とする))の+150段程上。+1310段の解像度。K701の112%の解像度と言ったところ。解像度に段という単位を使うのはどうかと思うんだけど、伝統だね。奥行きは24m(カンスト)


◆nighthawk carbon
2023/05/05_nighthawk carbon_3101時間ランダム再生(+9576時間の通常の再生エージング)_DR.DAC3, 1kHz, 0.423Vrms, 25Ω
傾向はニュートラル。詰まり感なし。閉塞感なし。抑圧感なし。音色はかなり良い。また機械の存在を忘れて音楽に没頭できるレベルをボーダーから0.4歩ほど超えてきている。解像度はK701(エージングタイム4752時間以上, 0.6Vrms, +1160段(これを基準とする))の+180段上。+1340段の解像度。K701の115%の解像度と言ったところ。解像度に段という単位を使うのはどうかと思うんだけど、伝統だね。奥行きは24m(カンスト)
K812と比べると、音色はK812の方がほんの僅かだが良い。nighthawk carbonは抑圧された感じが僅かについて回る。だがクリアネスはnighthawk carbonの方が僅かに良い。解像度もnighthawk carbonの方が良い。また、K812は若干ボリューム感不足がついて回っている。パワー感ならnighthawk carbonの方が良い。どちらも似たり寄ったりの音質レベルなのだが、どちらかを取れと言われたらnighthawk carbonを選択する。

エージングについてはすでに9576時間鳴らしていたので、ランダム再生エージングですぐに音質が良くなると思いきや、60時間たっても音質がほとんど向上せず、良くなってきたのは600時間を超えてから。音質が上がりきるまでに2000時間はかかりました。バイオセルロースという固い素材を使っているので、歪が抜けるのに時間がかかるのでしょうか。HPT-700なんかはリピート再生で音質を悪くしても60-200時間でK701を追い抜く音質が出せたのですが。。。このヘッドホンはエージングについては本当に時間がかかるようです。評価されない理由はわかる。だけど私は評価している。


◆HD650
2023/05/10_3202時間ランダム再生(+800時間の通常の再生エージング)_AIO, 1kHz, 0.750Vrms, 300Ω,
『フルボディ、ヴェリースイート』という癖はかなり少なくなって、かなりニュートラルに近い感じになった。これは再生した楽曲によっても多少ふらふらしている感じ。解像度はK812(1310段)の550段ほど上。1860段くらいだろうか。
傾向はニュートラルだがややほんの僅かに柔らか傾向。詰まり感なし。閉塞感なし。抑圧感なし。音色はものすごく良い。まだ機械の存在を忘れて音楽に没頭できるレベルをボーダーから1.6歩ほど超えてきている。解像度はK701(エージングタイム4752時間以上, 1211曲のランダム再生, 0.6Vrms, +1160段(これを基準とする))の+700段程上。+1860段の解像度。K701の160%の解像度と言ったところ。解像度に段という単位を使うのはどうかと思うんだけど、伝統だね。奥行きは24m(カンスト)

HD650の解像度はK701と比べて60%増し、K812やnighthawk carbonと比べて大体40%増しという感じなですが、比べているK812やnighthawk carbonでも音質はかなり良いので、それの40%は結構な差です。DR.DAC3(ドノーマル)とConductor V2+くらいの解像度差はあるので、細部があからさまにつぶれて聞こえるとかそれぐらいの差があります。だけどHD650がすごいのはそこではありません。音色がとても良く生命感にあふれた音が出るので40%の解像度差以上に音が良く感じられます。率直に言えば、音が生きているか、氏んでいるか、それくらいの差があります。私の大好きなnighthawk carbonを100点とすると、HD650は200点をあげても良いくらい。いくら解像度が高くても糞つまんねー音が出てたらここまで褒めていません。「ちょっと褒めすぎじゃないのかwどんだけ音が良いんだよwwwwwこれだからHD650信者は・・・」と思われたかもしれないが、おそらく私のHD650はあなたの想像よりも音が良い。
HD650を超える音を出すヘッドホンは手持ちでは製作中のSound Improver 2のテストに使っているnightowl carbonくらいでしょうか、このヘッドホンならHD650よりも解像度は500段ほど上なのですが、音色はそこまで上回っていません。HD650よりも高解像高SNなのは間違いないのですが、「音楽の楽しさを引き出す」という点においてはそこまでの差をつけられていない。nightowl carbonを聴いた後にHD650を聴いても「結構いけるじゃん!」と思ってしまう。
ちなみにnightowl carbonは特殊なノイズを使って音質を引き上げているので、この比較はイーブンな条件ではありません。HD650と同じ条件でエージングした場合、nightowl carbonはnighthawk carbonと似たような音質レベルになるでしょうから、条件がイーブンならnightowl carbonはHD650に勝てないでしょう。こんな事を言うのは野暮かもしれないけど、この比較から言えるのはHD650よりも良い音は存在するし、HD650は原音の頂に上り切った性能でも物理限界に到達した製品でもない(そもそもそういった製品自体が存在しない)。なので最強などとと言うつもりはないが、それでもこのヘッドホンは相当つええと思う。

エージングについては、2000時間(推定)まではHD650固有のモヤっとした感じが結構出ていた。癖はあるんだけど音楽性が高くて聴き入ってしまうという感じだったのだが、3000時間(推定)では『フルボディ、ヴェリースイート』という癖すら感じられなくなってきて、残滓くらいは感じられる程度になってきた。
今回は推定エージング時間4000時間まで引っ張りましたが、3000から4000時間の間でも、じわじわ音質が上がってきている感じです。nighthawk carbonの経験から言うと、これ以上時間を引き延ばしても音質はほとんど上がらない領域に達していると思いますが、もしかしたら、もうちょっとだけ音質が上がるかもしれません。





■HD650考
HD650は言うなればエクスカリバーだ。剣を岩から抜いた者しかその真価は分からない。そして多くの人が岩に突き刺さっていることすら気づかずに「この程度のヘッドホン」と思っている。しかも、HD650は良いアンプを使わないと鳴らしきれないと言われているものの、「岩から抜けていないHD650」はアンプを変えてもレスポンスが本当に良くないので、ちょっとやそっと良いアンプに変えた程度では効果が感じにくいのだ。ごついアンプ持っている人でも「HD650は大したヘッドホンではない」と感じる人も多いはず。さらにHD650ユーザーの中には下手したら1万クラスのヘッドホンにすら負けると思っている人もいるはず。実際そういう音が出るから。なのでそれはそれで正しい評価ではある。だが、しかし!それは剣を抜くことすらできずに真の能力を発揮できていないだけなのだ。私もかつては「HD650なんて評判だけエクスカリバークラスなんだろw」と思っていたが、実力もエクスカリバークラスだった。原音忠実と騒いでいた人の中にはこういう音を出していた人がいたのかもしれないな。これだけ音質に剥離があったら世間と話が通じなくて当たり前。

「岩から抜けたHD650」はHD600と比べても明らかに音が良い。以前もHD600よりHD650の方が音色が良いと言っていたが、ここにきてその差がさらにはっきりしてきた。確かにHD600の方がニュートラルに近いのだが、HD650の方が音楽的で楽しい音。HD650を聴いた後HD600を聴くとかなり物足りなく感じる。こういうこと言うと「HD600はモニターだから」、「HD650はリスニング向けに演出されているから」と言う人もいますが、それは違います。演出で音楽性が上がることは絶対にありません。音楽性は元々音源に含まれていて、それをいかに再現するかがオーディオにおける音楽性です。演出をすると言うことはその再現性を落とすことに他ならないわけです。
ちなみにHD650に演出がないわけではありません。『フルボディ、スウィート』といったキャラクターが僅かですが乗ってきます。ではHD600にはこういったキャラクターがないのでHD600の方が音的に正しいのか?という問題ですが、


ここでオーディオの基本原理の話をすると
「音のキャラクターはオーディオ機器の発するノイズバランスに依存する。」
「ここで言うオーディオ機器の発するノイズとは、ヘッドホン/スピーカーの振動板や筐体が発する機械的ノイズや、MOS-FETなどの半導体やオペアンプ、IC、抵抗、コンデンサー、コイル、ケーブルなどが発する電気的ノイズなど、オーディオ機器を構成する部品自体が発するノイズのこと。機械的、電気的ノイズのどちらも最終的に音になって表れる。」
「オーディオマニアが『この機器はこういう傾向で〜』と話す場合は、このオーディオ機器の発するノイズの音癖のことを指している。機器固有のノイズなので、どんな音楽を聴いてもその癖がのってくる。」
「音の表現力はノイズの少なさに依存する。ノイズが少ない方が原音に近い音が出るからだ。(原音 + ノイズ = オーディオの音 である。)」

そして
「ノイズが多くてもノイズバランスが整ってさえいれば、聴感上はニュートラルに聴こえる。」
「ニュートラルかどうかは所詮サウンドキャラクターの問題なので、ニュートラルサウンドであっても、ノイズが多く表現力が高いとは限らない。ニュートラル=原音忠実ではない。ニュートラルであってもノイズが存在して本質的には癖があるのだ。そしてそのノイズが音楽波形を崩して音楽的表現をスポイルしていく。」
「ニュートラル=原音忠実ではないのだが、ニュートラルサウンドは機械の存在を隠しやすいと言うメリットがあるので、ニュートラルの方がイマーシブラインを超えやすい。なので基本的にはニュートラルサウンドを目指した方が良い。」
「音質を追及したら高解像・高SNなのに、なぜかつまらない音になった。と言う場合は、音色を汚すノイズや歪が入り込んでいると考えた方が良い。どんなに音質を追及しても完全なノイズレスを実現するのは不可能だからだ。」
「オーディオにおける音楽性は、音源の再現度の高さによってもたらされる。誤解されやすいのだが音楽性の高さは音質の良し悪しであって好みではない。」
「演出で音楽性を上げようとかまちがった考えを持たない方が良い。それはノイズを増やして再現力を下げることに他ならないからだ。演出があるのに音楽性が高い場合は、ノイズが少なくノイズバランスがニュートラルから外れている場合だ。本質的には表現力の高さ=ノイズの少なさだ。その音楽性の高さは演出によってもたらされてはいない。」


補足
「音楽性の高い音とは『製作者の意図が伝わる』とか『演奏者の技巧の細かな違いが分かる』とか色々言われるが、端的に言うと『感情表現が出来る音』のことだ。感情が表現できない音は音楽性が高いとは言えないからね。オーディオで感情表現を高めるためには声の微小な音圧変化や声色の微妙な音色変化を正確に捉えて再現する必要がある。つまるところ、それは原音に忠実に再生する事を意味している。言い換えると、音楽性の中の感情表現という一項目を取っても、音楽性を高める方法は原音忠実性を高める以外に存在しないと言う結論に至るしかなくなるのだ。そしてこれが、演出では音楽性を絶対に上げることが出来ない理由でもある。(※2)」


以上のことを踏まえると、
HD650とHD600の音楽性の違いは再現性の差からきていると言ことになるし、実際、再現されるべき音楽的要素をHD600は明らかに取りこぼしている感じです。聴感上演出が少ないという点においてはHD600の方が正しいのですが、本質的な再現性においてはHD650の方が正しいと言えるでしょう。ただし音楽性に関してはHD600が特別悪いと言うよりもHD650が特別良いと言う感じです。音楽性はHD600,K701,K812,nighthawk carbon,HPT-700は大体横並びかな。音楽性ってオーディオでは一番難しい項目で、なかなか差がつきにくい項目でもあるんですよね。正確にはnighthawk carbon,k812,HPT-700はHD600,K701よりも良いのだが、HD650はさらにそのずっと上をいく。nighthawk carbonやHPT-700, K812の音が氏んでると思うくらい生命感に溢れているのよね。この点においてHD650は他のヘッドホンとは隔絶した性能を持っている。HD650の音楽性が良すぎて、nighthawk carbonやK812やHD600で聴いてても「なんかどころか全然違うなー」となってまたHD650で聴きたくなってしまう。なんていう悪魔的な魅力があります。

確かにHD600の方がキャラクターとしてはニュートラルだけど、HD650と比べるとHD600は歪っぽかったり、抑圧感があったり、音がくすんでいたり、HD600のほうが癖が多い感じです。「モヤモヤモコモコの付帯音だらけのHD650がそんなにローノイズのわけないし、あれは癖の塊だろw」と思っている人もいると思うけど、私のHD650はそんな印象は全くないです。K701と比較してもK701の方が癖の塊に聴こえるレベルで自然です。表現力がとても優れているので、『フルボディ、スウィート』と言ったHD650固有の演出があってもそれでもなお、自然に聴こえるわけです。癖があるのに自然というのは矛盾して聞こえると思うけど、HD650と比べてしまうと、「HD600もK701も結局ニュートラルと言うカラーレーションが乗っているに過ぎない」と見破れてしまう程度には自然なのだ。完全な原音忠実ではないが、HD600やK701と比べて明らかに原音忠実性が良いと言える音質レベルにはある。
 nighthawk carbonやK812と比べても似たような印象だ。HD650と比べるとnighthawk carbonやK812は濁って聴こえる上に癖の塊にしか聴こえない。元来HD650はトロいと言われてきたけど、私のHD650はK812よりもハイスピード。HD650の方が鮮烈でクッキリした音。「もうそれって癖がないんじゃないのか?」と思われるかもしれないが、癖は確かに持っている。持ってはいるが、K812やnighthawk carbonより癖は少なく、それらのヘッドホンよりもHD650の原音忠実性が高いのだ。上で『フルボディ、スウィート』といったHD650固有の演出があると書いたが、実はそういった演出も僅かで、演出より先に「より原音に忠実に」「より音楽的に」というものがくる方向性だ。


価格に関しては20230207時点でのHD650の価格はかなり上がっていて、62800円くらいします。対してHD600は41800円なので1.5倍くらいの価格差はありますが、この価格差でもあえてHD600を選ぶ理由が見つからない。たとえ価格が2倍でもHD650の方を選んだほうが良い。3倍あったら・・・うーん、ちょっと考える。「予算がないならHD600しかない。だけど結局HD600ではHD650の音は出せないからなぁ・・・」と悩んでHD650を買ってしまう。それくらいの音質差がある。(※1)
 確かにニュートラルさで言うとHD600の方が上なのだが、それを言うとK701やHPT-700の方がニュートラルなのでやっぱりHD600を選ぶ必要性があるか?となってしまうし、HD600のニュートラルってダイナミクスを圧縮して無理やりニュートラルにもっていった印象がついて回るので、そういった意味で作為的な部分がある。・・・それ以前にHD600もHD650同様鳴らしにくい部類のヘッドホンでもある。だがHD600にはイヤパッド、ヘッドパッド、ケーブルの交換部品が簡単に手に入れられるメンテナンス性の良さがあるし、堅牢性もあるので、耐用年数はK701やHPT-700よりも長いだろう。そのあたりを加味すると、音楽制作などで「耐久性の高いHD6○○シリーズの中で安価でニュートラル傾向なヘッドホンが欲しい」って需要ならあるのかもしれない。それにHD600もランダムエージング法で鳴らした状態だとK701よりも音質は良く、K812やnighthawk carbonに近しいレベルの音が出るので決して悪いヘッドホンではない。良いヘッドホンである。だけど音楽を純粋に楽しみたいなら断然HD650のが良い。たしかにHD600は良いヘッドホンだ。それでもHD650の音を聴いてしまうと、そんなことは無意味になる。

HD650は真価を発揮できるならK812より遥かに良い音で、「62800円でもまぁ良いか。かなり高くなっちゃったけど代わりがないならしょうがないな!」と思える音です。例えばK812を聴いていて、HD650に変えた瞬間「ああ・・・K812ではHD650にどう頑張っても勝てないな・・・」と確信してしまうくらいHD650の基礎性能は高い。
ですが、ここまで褒めたHD650ですが、アンプへの要求も高いし、買って挿せば良い音が出るわけではないので、誰にでもはお勧めできません。『音がモヤつく』とか、『解像度が不足する』とか、『キレがない』とか、そういう感想が出る段階でもう全く鳴ってないと判断して構いません。岩から全然抜けてない。おそらく世の中のほとんどの人は鳴らせていないんじゃあないでしょうか?岩から抜けたHD650にはそういう印象はありません。好みを超越した良い音なので、すぐに鳴っていると確信できます。好みを無意味にしてしまうほどの音で、誰が聴いても良い音と感じるはず。嫌いになる人はいないだろう。だが、HD650はこのエクスカリバーを抜ける自信がある人か、挑戦したい人だけが買えば良い。「HD650は本当はすごいヘッドホンなんだ!」と誰彼に勧めてもどうせ真価が分かる人は数える程度の選ばれし勇者しかいないだろう。なのであえてお勧めはしない。。。。。

。。。

。。

とかっこつけて言ってみたが、ちがうちがう。こんなの私の本心ではない。HD650は鳴らしきれようが、鳴らしきれまいが、所有する価値のあるヘッドホンだ。いまだかつてここまで評価の変わったヘッドホンはない。かつてHD650を原音忠実と嘯いていたHD650信者の気持ちが私にはわかる。本当にそう言いたくなってしまうのだ。もし、あなたがHD650の音に満足できていなくても、手放さずに鳴らしてみてほしい。このヘッドホンは貴方が思っている遥か上のポテンシャルがある。HD650はみんなが買うべきヘッドホンだ。私の言葉を信じてほしい。





※1. 20230403にHD600の価格が44000円から61380円に値上がりしてしまいました。実売価格だと5.5万くらいのようです。HD600でもK812やnighthawk carbonに近しいレベルの音が出せるので、1997年に発売したモデルでありながら、未だ一線級の性能を備えていると言っても良いでしょう。値段高くなっちゃったけど能力的にはこの価格でも損はしない感じかな。コストパフォーマンスが良いと言える価格ではなくなりましたが。
ただし、HD650との価格差がほぼ無くなってしまったので、HD600を選ぶ理由がますます無くなってしまいました。HD650を買わなくても、この価格ならHD600を選ばずにATH-AD2000XやFidelio X3が欲しいなと思いますね。個人的にはHD600は35000円くらいがちょうど良い価格だと思います。その価格だと買いやすいし、コスパも良いですからね。そもそもHD600はHD580の豪華版でHD580の正規価格は28000円くらいだったので、それ+αで35000円くらいがちょうど良いだろうと思います。もちろんインフレによる価格上昇で20年前と同じ価格では出せないのかもしれませんけど、61380円と言う価格は、まるでコンビニで1000円の弁当を売るとかラーメン屋が1000円のラーメンを売るような感じに見えてしまいます。実際にその価値があっても消費者の相場観からはかなり外れているために買いにくい価格と言うことです。
HD650も一般的には「HD650に62800円は高い。最近までは45000円くらいで買えたのに・・・最安値だと35000円で買えたのに・・・」と言う感じで、ちょうどいい価格からは外れているのでしょう。個人的には「HD650は62800円でも買うべきヘッドホン。買う価値がある。」と思っていますが、HD600に関しては「たとえHD650が存在していなくてもHD600が6万円ならコスパは凡庸になってしまったし、HD600は買わずに他のヘッドホンを選択するかな。他にコスパの良いヘッドホンは存在するので。」と言う感じです。
あんまりコスパコスパ言うのも貧乏臭いし、音に惚れこんでこれが欲しいから買うのとは対極にあるのでどうかと思うのですが、もしかしたら私はHD600があまり好きじゃないのかもしれない・・・だからコスパなんていう矮小な基準でしかこいつの価値を測れないのだろう。
上で「HD600はK812やnighthawk carbonに近しいレベルの音が出せる」と書いたけど、それは冷静に考えればHD600を世評よりも高く評価していることになるし、それならHD600に6万くらい出しても良いんじゃないかと思われるかもしれませんが、nighthawk carbonには6万出しても良いかなと思えるけど、HD600には出せないってなるからなぁ。。。HD600は聴いていて、「ここが良い!」って思うよりも「もっとここがこうだったら」と感じることが多くて、フラストレーションが溜まる音だからかもしれない。HD600は突出した長所も欠点もないのが特徴ではありますが、完璧でもないし、欠点は無くても及んでない部分はたくさんあります。HD600はそれより上のレベルの音を知っていると及んでない部分ばかり目についてフラストレーションが溜まってしまう。かと言って突出した長所もないから、大きな+と−がなく、小さな+が数える程度。それ以外は、小さな−がたくさん並ぶようなヘッドホンに感じてしまう。HD600は80点主義とはよく言ったもので、たしかに何を聴いてもそこそこの表現をしますが、私には足りない20点が−にしか感じられないのです。HD600は冷静に判断すれは良いヘッドホンなのに、私が好きになれない理由はそこなのでしょう。ちなみに80点は原音に対して80点でなく、ライバル機に対して80点の意味です。しかも点数は「80点主義」のたとえ話から出た適当です。K812やnighthawk carbon相手なら92点くらいの点数は出ていると思う。確かに優秀なんだけど、これらのヘッドホンと比べた時に「HD600はここが良いね!」と言うのが存在しない。飛びぬけた長所がないから。それで-8点の及ばない部分が気になってくるのがHD600。
ここで「K812やnighthawk carbon相手に92点も取れたんだからいいじゃないか!全てにおいて最高を求めてるわけじゃないよ!」と思える人はちょっとお金を出して良いヘッドホンを買おうとしている人でしょう。でもそういう人に6万はちょっと高いんじゃないかな・・・
音以外にもHD600には歴史的価値がありますが、それでも6万は高いと思います。初期型の外装、音を完全再現ですと言うならその価値はあるかもしれませんが、今のマイナーチェンジ版にはそこまでの価値を感じません。歴史的価値を求めてコレクションする人は状態の良い中古を探せば良いわけですしね。


※2. (演出では音楽性を絶対に上げることが出来ないと書きましたが、ここで演出で良く感じることもあると反対意見の人もいるでしょう。確かに何事にも例外はあります。極論を言ってしまえば、人間が聴いて良いと感じれば、それは音楽性が高いわけです。エンジニアの方はエフェクター駆使して音を作っているわけですし、それで良く感じてもおかしくはありません。それに、濁りが僅かに入っていると歪感が緩和されて音色が良くなったと感じることもあります。しかし、今のオーディオ機器はあまりにもロスが大きすぎて、演出で音楽性を上げようとしたところで、より原音に忠実でロスの少ない物と比較してしまうと化けの皮が剥がれてしまう。そういったレベルなのです。この記事に出ているK812でも原音を100とすると・・・それだと語弊があるので、現状のヘッドホンの技術的課題をすべて解決できた場合出るであろう出音を、これを原音に近いものとして、100とすると、K812は20くらいしか引き出せてないんじゃないでしょうか。いや、かなり甘めに見積もって20なので、20も引き出せているかも怪しいでしょう。もちろん原音を聴いたわけではないので正確にはわかりませんが相当にロスが大きいと感じています。こういった現状では演出でどうこうするよりはロスを減らす努力をしたほうが遥かに効率的です。それにオーディオ側で演出をする方法では音楽の合う合わないが出てきてしまうし、演出では感情表現を上げることができないので、根本的な部分で音楽性が上がらないという問題が付いてまわります。そもそも演出をするということは、原音以外の何らかのノイズ成分を足すということなので、必然的に再現性が落ちてしまいます。なので断定的に書きすぎかなとは思いましたが、あえてそう書かせてもらいました。)





■鳴らしきるについて
 今回はK701と同じく1211曲の楽曲を長時間ランダム再生するエージング法で音が良くなったという話ですが、鳴らしきるためのアンプの要求も下がっている感じです。鳴らしきるの定義を「同価格帯の出来の良いヘッドホンと同等以上の解像度と定位で鳴らす」とすると、以前の「鳴ってない状態のHD650」だとHD120では鳴らしきるには少し足りず、conductor V2+が必要と言う感じでしたが、「鳴ってる状態のHD650」だと、HD120で全然問題ないと言う感じです。以前はHPT-700と比較してましたが、HPT-700は今断線中で比較はできませんが、断線前に鳴っていた印象からするとHPT-700よりも確実に良い音が鳴ってますし、K812と比べてもHD650の方が音が良いので「同価格帯の出来の良いヘッドホンと同等以上の解像度と定位で鳴らす」という定義ならHD120レベルのアンプで問題ないといって良いでしょう。

え?ATOLL HD120がマイナーすぎてどの程度のアンプか分からない?解像度や定位はidsd Diablo並、音色はDiabloより良い。もしくはconductor V2+の解像度と定位をidsd Diabloレベルまで落としたのがHD120と言う感じでしょうか。イヤホンだとノイズが聴こえるとか、エージングに時間がかかると言うことを許容できるなら良いアンプ。リモコンとMA100を買いそろえるくらいには気に入っている。

ちなみにRME AIO(サウンドカード)でも鳴らしてみましたが、上のK701の例のように悲惨な音が鳴ると思いきや、結構聴けるレベルでなります。解像度や定位は落ちますが、音楽的ではあります。
AIOでもHPT-700やK701よりも確実にいい音で鳴っているので、鳴らしきるの定義を「同価格帯の出来の良いヘッドホンと同等以上の解像度と定位で鳴らす」とするなら、AIOでも十分鳴らせているということになります。"岩から抜けてないHD650"だとconductor V2+でようやくHPT-700をちょい上回る程度の音を鳴らせる感じだったのですが。。。
これはLV99の勇者が岩が突き刺さったままのエクスカリバーを無理やり振り回していたのが、岩から抜けたとたんLV1の勇者でも軽々振り回せるようになったという感じでしょうか。
もっとも岩から抜けてもそれを使いこなせるかどうかはまた別問題なので、AIOで十分というわけではありません。個人的には最低でもHD120レベル以上は欲しいと思っています。(これは普段HD120を使っていて、それが基準になっているだけなので、気にしないでね。)

ただし、HD120で鳴らした時のような、今回の記事にあるような音を出すことを求めるなら、アンプを選ぶ必要があるようです。というのはK812の記事でiDSD Diabloで鳴らして比べてみましたが、iDSD Diabloで鳴らすと、HD120で鳴らした時の良さが全部なくなってしまいました。それでもK812やnightowl carbonよりちょっといい程度の音は出るので、一流の音は出るのですが、超一流ではなくなりました。以下はK812の記事から引用です。


----------K812の記事から引用

(※1)アンプとの相性について。
視聴ではHD120を使いましたが、K812をiDSD Diabloにつないでみたところ。ボーカル帯のぼやけが改善しました。ボリューム感も改善しています。ただし、nighthawk carbonと比べるとパワー感/ボリューム感ともnighthawk carbonが上なので、相対的にはやっぱり劣っているのかな?という感じです。それでも聞き比べをせずにK812単独で聞く限りは気にならないレベルです。ボリューム感はHD650ではiDSD Diabloに切り替えても向上せずに音色が若干作為的になったり、抑圧感が出たり、開放的や広がり感の低下などiDSD Diabloの悪いところが出てしまってHD120の時よりも音質は低下してしまった感じです。逆にK812やnighthawk carbonの場合、iDSD Diabloのほうが好ましいと感じました。K812やnighthawk carbonでも自然さや解放感という意味ではHD120のほうが優れているのですが、iDSD Diabloの場合、パワー感/ボリューム感が改善してくっきりとした音が鳴るからです。もしやと思ってHD600でも試聴しましたが、HD650だけでなくHD600もボリューム感の改善がしなかったので、これはHD120の残留ノイズの影響かもしれません。ATOLLは低フィードバックを謳っててフィードバック量が少ない設計なので、残留ノイズが多い。EPT-700やER4SRでも残留ノイズがギリ聞こえるので。nighthawk carbonやK812だとギリ聞こえない感じ。聞こえないレベルであっても音質には影響しているのかもしれません。尤も同じ300ΩのHD600とHD650でもボリューム感の違いは出るので、アンプだけが影響しているわけではありません。ただし今回のK812の場合、HD120が結構音に影響しているようで、HD120で試聴するとHD650優位でK812は不利になる感じになるので一応言及しておくことにした。要は「アンプによってヘッドホンとの相性が出るよ!」ってこと。
ではiDSD Diabloで再生したらK812とHD650のどちらが音が良いだろうか?ということなのだが、iDSD Diabloで再生してもHD650のほうがK812よりも音が良いというのは変わらない。変わらないが正直言って、K812よりも若干いい程度になってしまった。HD120でHD650を絶賛していたあの音がなくなった。自然で音楽的なあの音だ。HD650考ではHD650を「『フルボディ、スウィート』といったHD650固有の演出も僅かで、演出より先に「より原音に忠実に」「より音楽的に」というものがくる方向性だ。」と言ったけど、Diabloではそういう印象はない。Diabloだと音に曇り感が出るし、抑圧感が出るし、閉塞感が出る。HD120で鳴らす場合、HD650はあらゆる面でK812に負けないと感じていたけど、iDSD Diabloで鳴らすとクリアネスと左右の広がり感は負けていると感じる。HD120の時はHD650と比べてK812が濁って聞こえていたが、DiabloだとHD650のほうが濁って聞こえる。。。アンプでここまで違っちゃうともうレビューとしては役に立たない気がするが、私のは何が書いてあろうが唯の読み物だから気にしないでおこう。
ボリューム感はHD650のほうがまだ優れているが、ボリューム位置固定で聞き比べてもHD650のほうが音が大きく感じるってこともなくなり、ちゃんとHD650のほうが音が小さく感じる。K812のボリューム感不足は確かに改善されているようだ。
解像度はHD120で鳴らした時のHD650を1860段、K812を1310段とすると、iDSD Diabloで鳴らした時のHD650が1535段、K812が1385段といった感じ。iDSD Diabloで鳴らす限り、HD650とK812の解像度差は10%くらいしかない。

HD120からDiabloに変えるとHD650は大幅に音質が落ち、K812はちょっと音質が良くなる。優れたアンプにつなげれば、どのヘッドホンも音質が良くなると思っていたが、それはあくまで机上の話で現実はそう単純でもないようだ。

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AKG K701-Y3の話_20221208_追記, エージング考のDiabloのバランス駆動の項

・K701はHD650ほどアンプの要求は厳しくないけど、アンプの癖に対しては寛容でない。

・HPT-700の良さは「音楽の良さを引き出す能力」が高いことだが、アンプの癖には寛容でない。

・HD650(バランス標準ケーブル,約800時間,非ランダム再生エージング)はアンプの癖もすべて取り込んでHD650の音にアレンジして出力する感じで、どの環境でもそれなりに良い音で鳴るが、「音楽の良さを引き出す能力」もそれなり。

と評価したが、

"岩から抜けたHD650"はHPT-700同様、「音楽の良さを引き出す能力」が高いが、アンプの癖には寛容でなくなっている。しかもHPT-700よりも能力が高い分、アンプによる音質の落差がかなり大きくなっている。

iDSD Diabloで聴くまで(以前はアンプを選ばなかったので)HD650をどんなアンプでも良い音で鳴る無敵のヘッドホンと思っていたが、どうやらそんなことはなかったようだ。アンプで音質が大きく左右されてしまうのだから。とはいってもAIOでもそれなりの音は出てしまうので、アンプがしょぼいと全く鳴らないということはありません。HD650は限界性能がとても高いようで、それを発揮させようとすると、アンプにかなりこだわらないといけないと感じている。この記事でHD650をめちゃくちゃ褒めたけど、それでもこいつの限界はまだまだこんなものじゃないだろう。





■HD650考まとめ
・K701と同じく1211曲の楽曲を長時間ランダム再生するエージング法でエージングしたら、HD650の音質が劇的によくなった。
・K701やHPT-700と同様、エージングタイム2000時間あたりでかなり良くなってくる。3000時間あたりで個性も薄くなってきて、「より原音に忠実に」「より音楽的に」という方向性の音になった。
・HD650はK812やnighthawk carbonと比べてDR.DAC3(ドノーマル)とConductor V2+くらいの解像度差があるし、これらのヘッドホンの音が氏んでるんじゃないかと思うくらい生命感にあふれた音。厳密には原音忠実ではないが、原音忠実ともてはやされるに値する音が出ている。

・また、上記のエージング法によってHD650は「音楽の良さを引き出す能力」も極めて高くなったが、反面アンプの癖に寛容ではなくなった。「より原音に忠実に」「より音楽的に」という方向性の音を出したいならアンプを選ぶ。再生環境によっては、この記事にあるようなK812を圧倒するような音は得られない可能性がある。ただし、鳴ってない時と比べるとサウンドカードレベルのショボアンプでもいい音が出せるようになっている。

・HD650はエクスカリバーだ!すごい!すごい!すごい!すごい!すごい!
・もしHD650を聴いて『音がモヤつく』とか、『解像度が不足する』とか、『キレがない』とか、そういう感想が出るなら、もう全く鳴ってないと判断していい。岩から全然抜けてない。
・だが、鳴らしきれても、鳴らしきれなくても、HD650は所有する価値のあるヘッドホンだ。(エクスカリバーだからね)

という内容が上に書かれている。





20230724_追記


上でHD650考を執筆したときはHD650のエージングタイムは4000時間程度でしたが、その時点でも音質がジワジワ上がっていたので、さらに鳴らしこんでみました。

2023/07/10_5476時間のエージングタイム(うち800時間は通常の再生エージング)_AIO, 1kHz, 0.750Vrms, 300Ω,
これは3202時間ランダム再生(+800時間の通常の再生エージング)時と比べてさらに精細さを増した気がする。直接比べていないが2000段クラスの解像度はありそう。K701(エージングタイム4752時間以上, 1211曲のランダム再生, 0.6Vrms, +1160段(これを基準とする))と比べると800段以上の差はありそうな感じ。でも離れすぎててそこまでの正確性はないかもだけど。比べるとK701はあまりにも音数が少なく、あまりにも音が痩せていて、あまりにも音が硬く、あまりにも生気がない。かつて同グレードのヘッドホンとして語られていたのが信じられないほどの音質差がある。K701はエージングタイムが4752時間程度と、724時間HD650よりも短いのだが、これだけ差があるとひっくり返すのはほぼ不可能だろう。
K812やnighthawk carbonもHD650考の投稿以降も鳴らし続けていますが、音質はそこまで変わっていない印象です。つまりK812やnighthawk carbonでは4000時間を超えるともう音質的変化はほとんど感じられなかったのに、HD650はまだ変化する余地があるようです。この感じだと8000時間以上は様子見た方が良いかもしれません。K812と比べると、解像度で700段くらいの差があるので2010段ほどの解像度というところでしょうか。HD650考の投稿時は1860段と評価していたので、それよりも8%程増しているといった感じ。癖もさらに少なくなっている。情緒的な表現も以前よりうまくなっている。特別なノイズを流しているわけでもないのに、どうしてこのレベルの音が鳴らせるんだろう?どうしてこんなに良いのだろうか?HD650は化け物か!と思っていたところで、5700時間前後で左から音が出なくなった・・・

「ケーブルが断線したか?断線させるような付加は掛けておらんけど」
「あれ?ケーブルはちゃんと通電してるようだぞ?」
「・・・アンプ変えても相変わらず左から音出ない。」
「EPT-700ではきちんと左右から音が出ている」
「もしかして・・・コイルか?」
「(端子からテスター当ててみる)左だけ通電してない・・・コイルだわ・・・修理不能」

今までnightowl carbon,HD600,SRH1540,ER4SRをmaxmum inputで数千時間、nightowl carbonは2万時間以上鳴らしてきたが、断線することはなかった。(ただしmaxmum inputで鳴らしたのはホワイトノイズ系のノイズで、正弦波の低周波音だとmaxmum inputだと壊れる。DT880は壊れた。)
普通に考えて通常の使用音量域、普通の音楽再生で5700時間程度でコイルが切れるなんてありえないんだが、なぜか切れている。HD650をmaxmum inputの500mwで鳴らすには12.24Vrmsの電圧が必要なのだが、0.750Vrmsはそのたった1/16の電圧である。考えられるのは経年劣化で腐食が進んでいて切れてしまったか、AIOが壊れて巻き込まれたか、天文学的確率で運が悪かったかだろう。15年物だからね。このヘッドホン。15年使っても天井が見えてこない奥深いヘッドホンだった。
それにしても、もうHD650の音を聴けないと思うと喪失感がやばい・・・





2023/01/03-2023/05/19 執筆    
2023/05/19 公開